ほえほえ^~、お久しぶりです。ほえタコです。
かつて、といってもほんの1年ほど前に、SPYD(SPDRポートフォリオS&P500高配当株式ETF)なる名の、米国株投資家に大人気の高配当ETFがありました。
かくいう私もこの時期にSPYDへの投資を決め、現在は絶賛含み損を抱えています。
2019年当時、SPYDはVYM(バンガード米国高配当株式ETF)やHDV(iシェアーズコア米国高配当株ETF)など他の高配当ETFよりもトータルリターンで勝っており、長期的にはS&P 500にもパフォーマンスで追随する素晴らしい実績を誇っていました。
(青:SPYD 赤:VYM 黄:HDV 配当込みリターン portfoliovisualizer.com)
上は2019年末までの配当込みリターンです。青線がSPYDであると信じられる人が今いるでしょうか。
(出典:S&P 500 High Dividend Index – S&P Dow Jones Indices)
上の図は、2010年~2019年末までの、SPYDの大本となる「S&P 500高配当指数(S&P 500 High Dividend Index)」指数のトータルパフォーマンスです。
なんと過去10年間で(SPYDの元指数は)S&P500をアウトパフォームしていたのです。
グロース株やハイテク株が栄華を極める2010年以後の世界で、SPYDはどうしてここまで優秀な成績を残せていたのでしょうか。
当時の投資家たちは、次のようにSPYDの利点を述べました。
- SPYDの採用する「均等加重」方式は、歴史的に見ても「時価総額加重」方式をパフォーマンスで上回ってきた。均等加重型のスマートベータには期待できる。
- SPYDは不人気な高配当株にまとめて投資するが、構成銘柄はすべてS&P 500採用企業でクオリティフィルターが効いている。一定以上の財務健全性が担保されている。
- 歴史的にSPYDの構成比率の多くを占める「中型バリュー株」は、「大型グロース株」を大幅にアウトパフォームしてきた。バリュー系のスマートベータETFとしても有望である。
- 不況に弱い不動産セクターの割合は高いが、不況に強いエネルギーセクターや公益セクターの割合も高く、全体としてセクターバランスが取れている。
- 過剰な期待が集まったS&P 500のグロース株に投資するよりも、誰からも期待されておらず見放されたS&P 500不人気株(SPYD構成銘柄)に投資をした方が、(期待でプレミア株価がついていない分)長期的には良い結果を残せる。《ダウの犬戦略》のS&P 500版を実現してくれる素晴らしいスマートベータだ。
そして、来たる2020年2月。コロナショックがSPYDを襲い、SPYDは次のようになりました。
(青:S&P 500 黄:VYM 赤:SPYD 1年チャート Yahoo Finance)
2020年3月にかけてSPYDの株価は最大-46%近く暴落し、そしてその後も値を戻すことができずに低迷し続けています。
S&P 500がコロナ前の株価を取り戻し、史上最高値を更新したあとも、SPYDは1年パフォーマンスで-27%のあたりを低空飛行しています。
そして高配当が魅力のSPYDでしたが、2020年6月には20%減配、同年9月には40%の減配を発表し、投資家らを失望させました。
SPYDがこれからもダメダメな理由を投資家たちは次のように言います。
- SPYDの採用する「高配当株の均等加重」戦略は、株価の上がっている銘柄を手放し、株価の下がっている銘柄を嬉々として掴みに行く、愚かしい逆張り戦略である。このスマートベータの余計な銘柄入れ替えのせいでSPYDはコロナショック後のリバウンドを取るのに完全に失敗している。
- SPYDはS&P 500から脱落寸前の不人気銘柄にまとめて投資するため、ジャンクの寄せ集めであり、そのリスクは「スモールキャップ平均指数」よりもなお高い。
- SPYDの構成比率の多くを占める「中型バリュー株」の企業群は、コロナ禍で壊滅的なダメージを受けており、もはや希望がない。
- SPYDの多くを占める不動産セクターやエネルギーセクターは、コロナ禍で決定的なダメージを受けたセクターであるのはもちろんのこと、アフターコロナの世界でも低迷が予測される。そもそもハイテクが入っていない時点でこのスマートベータには未来がない。
- S&P 500のなかでも投資家の期待に応える業績成長を誇る「厳選された」優良企業に投資すべきであり、低金利の下ではグロース株の高PERは許容される。投資家から見放された低PER・高配当で成長性の乏しいオールドエコノミー企業などに賭けるべきではない。
ここまでお読みの方ならお察しのとおり、SPYDの利点としてかつて語られてきたこと、そしてSPYDの短所として現在語られていることは「結果がすでに生じたあとの後付け」でしかないのですね。
SPYDが好調な時期は、いくらでもSPYDが優れている理由を述べることができる。
SPYDが絶不調なときは、後出しジャンケンでいくらでもSPYDがダメダメな理由を列挙することができる。
→ ゆえに優れたパフォーマンス《結果》が生じる
ではなくて、
→ その投資戦略が優れている《理由》が創り出される
逆もまた然りです。
→ ゆえに市場平均にボロ負けする《結果》が生じた
ではなくて、
→ その投資戦略が劣っている《理由》が創り出される
ということです。
そしてもっと言うならば、我々は「現在の状況がこれからも続くであろう前提に基づいて、未来を予測」しています。
SPYDが他の高配当ETFにアウトパフォームしていた時期にSPYDへの投資を決めた人たち(私もそのなかに入っています)は、バックテストの結果から《理由》を創出し、これからもSPYDは良いパフォーマンスを出し続けるだろうと考えた。
そしてSPYDをこてんぱんにこき下ろしてQQQなどに投資をしている人たちは、やはり同じようにコロナショック後の結果から《理由》を創出し、これからもハイテクグロース株は市場平均よりも良いパフォーマンスを残すだろうと考えている。
コロナショックでSPYDが(おそらく事前にはほとんど誰も予見できていなかった)壊滅的なダメージを負ってしまったことを考えると、それが起こってしまったあとに「SPYDがダメダメな理由」がいくら《発見》されようが、すべては手遅れであり、結果の生じたあとであり、後出しジャンケンであり、もはやどうしようもないです。
「現在の状況が、ある日を境に崩れ去ってしまう」未来を想起したときに、投資家が警戒すべきはVIGやQQQといった「今が好調な」投資戦略の方かもしれません。
私なんかもSPYDを損切りしてVIGに乗り換えようとしている投資家なので言えたクチではないですが、とくにVIGのリスクは警戒しています。
VIG(バンガード 米国増配株式ETF)は本質的に、「今の傾向が、これから先の未来も続くだろう」ことに対して賭けるスマートベータETFです。
- 10年以上連続増配企業は財務健全な優良企業が多く、ビジネスでも《強固な堀》を築くことに成功してきた企業が多い(から、これから先もそうだろう)
- 10年以上の連続増配実績を誇る企業は、業績成長が伴っている。連続増配が長期的に持続する期待を投資家から集めている(から、これから先もそうだろう)
- 連続増配銘柄は財務が安定しており、ボラティリティが低く、金融ショック時の下落率も市場平均よりマイルドである(から、これから先もそうだろう)
- 連続増配は、企業成長への意欲であると同時に、株主還元姿勢の高さをあらわしている。連続増配できるのは強くて良い企業だ(から、これから先もそうだろう)
「連続増配できる = 良いこと」といった前提式が崩れ去るようなブラックスワンが未来に訪れたとき、今回のSPYDのように、投資家たちはVIGを掌返しでボコボコに叩き出す日が訪れるのでしょう。
私たちがある特定の銘柄に投資するとき、そこには必ず投資する《根拠》なり《理由》なりを持っています。しかしそれが果たして、いざというときに自分の精神を支えてくれるかどうか、その日が訪れるまではわかりません。
私は2019年末にSPYDへの投資を決めたとき、いろいろ調査をした上で、たしかにSPYDは「良い」と言えるだけの《根拠》を自分のなかに持っていましたが、それも今では崩れ去ってしまいました。
本当のところは、バックテストの結果だけを見て「SPYDいいじゃん!」と感じたので、後付けでもっともらしい理由をくっつけて、自分は冷静で未来が見えていると思いこんでいただけなのかもしれません。
もしSPYDがこれからもダメダメだと断言できるのならば、市場平均に勝つのはとても簡単です。S&P 500のうちSPYD構成80銘柄を除外した《S&P 420》に投資をすれば良いわけです(銘柄入れ替えの手間とコストはかかるものの…)
— ほえタコ (@HoeTako) September 18, 2020
SPYDの大幅減配発表のあと「ほらね。SPYDはダメダメだと確信していたぜ! SPYDなんかに買い向かった奴らは未来が見えていない。S&P 500に投資しておけば良いものを」みたいな意見がタイムライン上でいくつか観測されました。
それが事前に分かるのならば、市場平均に勝つことはどれほどに容易いことでしょうか。
投資判断をする際に生じる「俺には未来が見えるぜ!」という感覚。それは実際のところ、過去の生み出した蜃気楼を目撃してるに過ぎないのかもしれません。
それでは明日も頑張っていきましょう。たこたこ^~。