ザイアンスの「単純接触効果」は投資方針にも影響を与え得る

ほえほえ^~、どうも、米国高配当株ETF投資家のほえタコです。

ほえタコはじつのところ、経済理論よりも「人間心理」を投資のコアとしています。というのも投資においては資産運用のパフォーマンスと同じくらいに、投資家自身のメンタルが大切になってくるからです。

ようするに「含み損を抱えてしまったときに、不安やストレスを感じないようにすること」に最も重きを置いています。

さておき、世には奇妙な心理実験がたくさんあります。

そのなかでとりわけ異質なのが1967年にオレゴン州立大学にておこなわれた「黒い袋の人間」(The Black Bag)の実験です。それが何を目的とする実験だったのかは謎に包まれています。

チャールズ・ゲオジンガー教授の講義では、毎週月曜日、水曜日、金曜日の午前11時に「黒い袋を全身にすっぽりと被った謎の人物」が教室の後ろの席に座ります。顔はもちろんながら手も胴体も黒い袋に覆われ、2本の脚しか見えないそれはそれは不気味な装束です。

はじめ、教室に入ってきた生徒たちは度肝を抜かれます。

「おいなんかヤベー奴がおるぞ」「こわっ、近寄らんとこ」みたいな感じです。

まあ大抵は無視するか、一部の好戦的な生徒は黒袋人間を傘で突っつきもしました。最初のうちは誰もが警戒し、《黒い袋の人間》に近づこうとはしませんでした。

しかし1週間も経つと好奇心から声をかけ始める生徒がちらほら出始めます。どんな変人奇人でも、慣れてしまえば次第に愛着が湧いてくるものです。

1ヶ月も経つと、生徒たちと謎の黒袋人間とには友情さえ芽生えていました。

この怪奇実験は2ヶ月間にわたって続けられました。

途中でこの「黒い袋の人間」の一件は新聞記事に載ってしまい、教室にはマスコミが殺到するようになります。

そのときも生徒たちは、押しかけるマスコミから黒い袋の人間を守ろうと行動しました。

結果として、黒い袋の人間の正体は隠し通されます。チャールズ・ゲオジンガー教授を除いて誰一人として黒袋の正体を知らないまま、実験は終了となりました。

このエピソードを持論の補強に使ったのがアメリカの心理学者、ロバート・ザイアンスです。

ザイアンスの単純接触効果(Mere exposure effect)といえばご存知の方は多いでしょう。

接触回数(目に触れる頻度)に応じて、その対象物への好感度が上がっていく。日頃から目にしている人やモノに対して、好意を抱くようになる。これが単純接触効果です。

単純接触効果はさまざまな場面で使われます。

  • 何度も繰り返されるテレビCM
  • 何度も追いかけてくるバナー広告(リターゲティング広告)
  • 名前を連呼する選挙カー
  • よく見かける芸能人

さておき投資家である私たちは「黒い袋の人間」(The Black Bag)の最も身近な例を知っているはずです。

そう、2017年の仮想通貨です。

仮想通貨は多くの人にとって、The Black Bagそのものでした。何に対して投資するのかがよくわからない金融商品で、謎の団体が次から次へと新しい仮想通貨のプロジェクトを立ち上げている。市場規模も小さいし、何よりニッチである。

しかしそんな仮想通貨市場に、株式投資もしたことのない初心者がこぞって参入したのが2017年でした。

イケダハヤト氏をはじめインフルエンサーが大手を振って仮想通貨を称賛し(もっともそれは取引所のアフィリエイト報酬が主目的でしたが)、テレビでもばんばん仮想通貨取引所のCMが流れました。

大多数がブームによる熱狂と雰囲気に飲み込まれ、自分ではよく理解しないままに仮想通貨へと多額の資金を投じてしまう。ビットコインやイーサリアムならまだしも、運営者情報も疑わしいICOにまでお金を送ってしまう。

そして、マスメディアが仮想通貨を批判し始めたら「マスコミは何も分かっていない。仮想通貨の未来を奪うな」と擁護する声が溢れました。

2017年から2018年は(投資があまり好きではないはずの)日本国民がこぞって仮想通貨に熱狂した異常な年として、私の思い出には強く刻まれました。

これはまさに「単純接触効果」が大規模に働いた好例であると言えるでしょう。

もちろん私は仮想通貨を批難したいわけではありません。米国株投資にせよレバレッジドETFにせよCFDにせよロボアドバイザー投資にせよ、ブームに安易に流されるのには何だって危険を伴います。

それがどのような金融商品であろうと、あなたが投資対象として検討し、情報収集する過程において

「警戒心 → 親近感」

に切り替わる瞬間があると思います。

仮想通貨にしても初めから親近感を抱いていた人はおそらく皆無で、最初は何かしらの警戒をしていたはずです。

その「警戒心 → 親近感」に切り替わった理由が、単純接触の原理(情報に触れた回数の多さ)によるものか、それとも熟知性の原理(対象への理解度の深まり)によるものか、見極める必要があるわけです。

一時期投資家界隈では、レバレッジドETFが流行しました。

「みんなやってるなら俺もやろうかな」とついつい思ってしまうわけですが、あれこそレバレッジドETFの仕組みやリスクを熟知していなければ、含み損を抱えたときにメンタルをやられるやつです。

ところで私が株式投資におけるポートフォリオの100%で運用しているHDV(iシェアーズコア米国高配当株ETF)ですが、これは正直なところあまり他者に推奨したいETFではありません。少なくとも友人や家族にHDVを勧めることはないでしょう。

何故かというと、HDVの銘柄選定基準には不透明な(モーニングスター社が完全に明かしてはいない)部分があるからです。経済的な堀(Economic Moat)の判断基準なんかがそれですね。

私が読者の皆さんにHDVを推奨したことが一度もないのは、HDVが「黒い袋の人間」(The Black Bag)になってしまうのを恐れてのことです。

このブログでは事あるごとにHDVの話題が出てきますから、単純接触効果によりHDVに親近感を抱くようになるかもしれません。

しかしながら「ザイアンスの単純接触効果は投資方針にも影響を与え得る」ことをよくよく考慮した上で、自分が心の底から納得できる投資対象を選択することが何より大切です。

それでは来年も頑張っていきましょう。どうか良いお年を!たこたこ^~